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2006年3月25日号
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郷愁込めた地も屋形船が消え

 「尾花川の街へ入る所に疏水の河口がある。ここから運河が山へ入るまでの両側は枳殻(からたち)が連なっているので、秋になると、黄色な実が匂を強く放って私たちを喜ばせた…」。

琵琶湖疏水に架かる鹿関橋から疏水トンネルを望む
疏水と横光利一(大津市)
 大正末期から昭和にかけて活躍した小説家横光利一の随筆「覚書」に出てくる琵琶湖第一疏水の取水口近くを歩いた。

 「明治初年の空気のまだそのままに残っている市街は、恐らく関西では大津であり、大津のうちでは疏水の付近だけであろう」と、横光が郷愁を込めて、こよなく愛した疏水付近の景観は、彼が疏水べりに住んでいた戦前の風景である。

 京阪電鉄・三井寺駅を降り立って、疏水べりのなだらかな坂道を、突き当たりの三井寺まで。300メートル余の道はレトロな疏水をのぞきながら足元にきれいに並べられた石畳を踏む。

 古びた石垣とグリーンの鉄柵が歩道脇に連なり、古い家屋の間に幼稚園、疏水越しに長等小学校のグラウンドが広がる。鹿関橋から見る疏水トンネルと、琵琶湖は当時の心象風景を残し、今でも疏水を挟んで長等山と琵琶湖の湖面を取り込んだ美しく、心安らぐ風景である。

 先代まで、疏水を往復する屋形船や旅館も営んでいたという疏水べりに住む岡本勝美さん(74)は「明治から昭和20年代のおやじの代までは、湖畔の港から米や木炭、魚を京都まで運ぶ屋形船が往復していた。この辺りは旅館や土産物店、食堂などが並び、それはにぎやかだった」と話してくれた。

 特に春の花見シーズンには、疏水沿いの桜とトンネルを出た京都側の山科から蹴上のインクラインにかけての桜並木が美しく、疏水下りは花見客で大にぎわいだったという。

 駅周辺にはマンションなどが建ったが、横光が住んでいたという鹿関町界わいは今も古い家屋が連なり、あまり変わってはいない。近くの幼稚園に子どもを迎えに来たという2人連れの若い母親が「湖と山の自然美をつなぐ疏水の周辺は、今も、落ち着いたすてきな環境です」と得意げに話した。

 明治末期の小学校時代に疏水脇の鹿関町に住んでいた横光は、東京の学生時代にもよく訪れ、新婚時代もこの地に住んだという。「あたたかい、郷愁をよびおこす町だった」と横光が少年時代の想いを綴(つづ)った鹿関町は、今「三井寺町」だが、橋のたもとに「旧鹿関町内会」の住居板が立ち、橋名とともに往時をしのばせる。当時と一番変わったのが、屋形船が消え、道路と疏水を分けていた枳殻並木が鉄柵になったことだという。

 疏水がトンネルに入る突き当たりの三尾神社から三井寺に向かう道は、自然のシャワーを浴びる格好の散策道。枳殻並木は無くなったが、疏水の桜は今も花見客の目を楽しませている。

【三井寺】686年、大友与多王が天武天皇の勅願により創建した古刹(こさつ)。長等山ろくに広がる約35万坪の広大な敷地に、国宝・金堂をはじめ近江八景で知られる「三井の晩鐘」の梵鐘や仁王門、釈迦堂、唐院、毘沙門堂など多くの重文を持つ文化財の宝庫でもある。奈良時代の作とされる弁慶の引き摺(ず)り鐘や左甚五郎の龍の彫刻など伝説の逸話も多い。琵琶湖を見渡す観音堂は西国14番札所でもある。電話077(522)2238 (大津市園城寺町)

【大津市歴史博物館】疏水近くの、三井寺に隣接する高台に1990年に開館し大津の歴史・文化を紹介する。縄文時代の遺物や大津京と近江国府の模型図、琵琶湖の変遷、江戸の膳所の城下町、明治の蒸気機関車や琵琶湖疏水などの歴史の跡を模型やパネル、写真などで紹介している。2階展望ホールからは琵琶湖や大津市街が一望できる。4月16日まで「大津絵の世界」展を開催中。電話077(521)2100 (大津市御陵町)

【琵琶湖疏水記念館】疏水竣工100周年を記念して前年の1989年に京都側の出口、蹴上に開館した先人の遺業をたたえる記念館=写真左。館内には難工事を完成させた田辺朔郎の大学時代の卒論や予算見積書、難工事の現場写真や絵画、工具、蹴上の水力発電所の開設当時の模様や巨大な水車、路面電車の模型などの貴重な資料が展示されている。中庭からはインクラインや疏水の景観が楽しめる。入館無料。電話075(752)2530 (京都市左京区南禅寺草川町)

調べにのせて 劇場への招待状

 夏目漱石の小説「明暗」には、劇場がお見合いの場所に使われる場面があります。お芝居の幕間に、食事の席でそれとなく若い2人を引き合わせるのです。

 昔から劇場やホールは、ただステージで行われているオペラや音楽、あるいはお芝居やバレエを見たり聴いたりするだけの場所ではありませんでした。休憩中には、友人や知人に出会ったり、初対面の人を紹介したり、されたり、その日の公演の歌手や演奏家、俳優の出来栄えを論じたり、あるいは最近の政治や経済など世の中の動きを語り合ったりと、まさに社交の場であり、交流の場なのです。

 最近の大都市の劇場では、次第にこうした親密で温かい雰囲気が失われつつありますが、びわ湖ホールでは劇場サポーターというボランティアの人たちが、舞台芸術への理解を深めながら、誰もが気軽に劇場へと足が運べるよう、人と人とのネットワークを広げる活動を続けています。

 そしてひとたび客席に座れば、ステージでは非日常の世界が展開し、芸術が見る人に語りかけ、癒やし、明日への希望や元気を与えてくれることでしょう。

 劇場には芸術と人を、そして人と人を結び付ける力があります。劇場から帰る時、あなたはきっと芸術との出合いや、さまざまな人との出会い、そして何よりも、新しい自分との出会いがあったことに気付かれることでしょう。

 びわ湖ホールをはじめ多くの劇場があなたをお待ちしています。

  (びわ湖ホール・井上建夫)

Alang Alang Perch(アランアラン パーチ)
草津市新浜町 電話077(566)3231

 門を一歩入ると南の島々を思わせる異空間。店内も、天窓の下のソファーやテラス、隠れ家のような間仕切り席などテーブルごとに違う趣を楽しませてくれるカフェレストランです。「食事と一緒に、豊かな時間や非日常を楽しんでいただければ」と話すのは、店を取り仕切る大石高也さん。かやぶき屋根が特徴のコテージ風の離れを昨年バリから移築し、空間演出が進化していくのも魅力の一つです。

 写真はオリエンタルプレート(1100円)とケーキセット(800円〜)。有機野菜やハーブを多用し、和食イタリアンをベースにオリエンタルなテイストを取り入れています。4月からはランチがより充実し、750円のセットから1500円のコースまで登場。夜のコースは2200円から。離れは予約を(コースのみ)。

大津市 藤崎善弥さん推薦

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